釣心あれば魚心

旧正月前後にかけて、華南地区も冷え込みが厳しくなってくる。旧暦の場合、毎年旧正月の期間は前後するが、冷え込む期間は同じように旧正月前後にかけてなので、長い歴史の中で培われた農暦（旧暦）は、自然の法則をよく反映したものだということが分かる。

暖かい時期であれば、青衣で下船後、埠頭で陸っパリをやるもよし、ベンチでビールをやっつけるもよしと、朝6:00のMTR始発を待つのはそれほど苦ではない。埠頭周辺は公園のようになっており、陸っパリアングラーや早朝ウォーキングをする人などで人気もあり、治安もそれほど悪くないのである。

しかしさすがにこの時期の人影はまばらだ。それに年末（旧正月）は日本と同じで著しく治安が悪くなる。この不景気では尚更だろう。なにより貧果に終わった夜は、いつもより寒さが身にしみる。

どこか明るい場所に移動し、24時間営業のお店を探そう。そう思いついた時には既に埠頭のタクシー乗り場に向かっていた。

ここから一番近い歓楽街は旺角である。邪まな気持ちがあったわけでは無い。風俗街を持つ旺角であれば、当然それに付随する飲み屋、食堂、うまくすれば安価な宿泊施設もあるかもしれない。

埠頭のタクシー乗り場に、仰向けで新聞をかぶり車内で寝ている運転手が居たので窓をコツコツ叩き起きてもらう。けだるそうにこちらを一瞥すると後部の自動ドアが開いた。「旺角」と告げるとめんどくさそうに発車する。ルームミラー越しにロッドを一瞥すると、ふん、と鼻を鳴らし「釣りかい？」と聞いてきた。そうだと返事をすると、どうせ釣れたかと聞かれるだろうから最初から「香港には魚居ないんじゃない？」と答えてみた。運転手はゲヘヘと笑い、何かをまくし立てるように話したが、広東語なのでよく分からなかった。どうせ愉快な話ではないだろう。

20分程度走っただろうか。町並みが明らかに変わってくる。人通りが増え車道の上空にまではみ出した看板が派手なネオンを明滅させている。時計は既に深夜3時を回っているが、夜に彷徨う人々を誘う、夜総会、カラオケ、按摩の色とりどりのネオンが妖しく光っている。「このへんが旺角だ。どこに行きたいんだい？」とニヤニヤ笑いながら運転手に告げられた。ちょうどマクドナルドのネオンが見えたのでここ（マック）でいいよと告げると、何故だかがっかりした様子で車を脇に寄せた。

マックは24時間営業のようなので、とりあえずマックで食事をとり時間を潰そう。