釣心あれば魚心

前回のあらすじ

香港の不夜城　旺角。夜の街を彷徨うyazhi。

24時間営業のマクドナルドを見つけここで時間を潰すことにしたが、、、。

店内に入ってみると、かなりの客が入っている。さらに客席スペースの半分は清掃中で、客の密度が高く座れる席がなさそうだ。見回すと学生とおぼしきグループが多いが、大きな荷物を脇に置き何もオーダーせずテーブルに突っ伏して寝ている老夫婦や、外から持ち込んだ食べ物で食事をする中年男性などもいる。店員はそれを分かっていながら特に気に留める様子もない。

なかなか大らかな店のようだ。

若者達の嬌声で騒然とする店内に見回りの警官まで現れる。

落ち着けそうもないな、、、、。何もオーダーせず店を後にした。

まあ、時間はたっぷりある。夜の歓楽街の散策、異国であれば尚、新鮮味があって悪くない。

派手なネオン、広東語の響き、壁や街頭のポールに貼られた下品なチラシ、臭豆腐のキツイ匂い、座り込む酔っ払い、香水の匂いを振りまきながらピンヒールで闊歩するフィリピーナ、目つきの鋭い二人組みの男。旺角はこの時間でも活気に溢れている。

国際都市香港のパワーは夜の街にも氾濫しているようだ。

街を散策していると、粗末な料理屋を見つけた。この時間でも営業しているようだ。店内には派手な身なりの若い女性と中年男性のカップルが一組いるだけである。腹も減ってきたのでこの店で腹ごしらえをすることにした。店内に入ると妙に愛想のいい老婦人が現れる。こんな深夜に、、、、と思ったが、彼女にしてみれば、深夜ではなく早朝なのかもしれない。私が外国人だとわかると驚いた様子だ。この時間に徘徊し、ましてや店に入ってくる外国人は珍しいのだろう。

まずビールを頼む。店の入り口は開けっ放しで、暖房もない。そこそこには冷えているのだろうが、外気との温度差が少ないせいでぬるく感じた。ビールは疲労した体に即座に吸い込まれ大瓶一本でほろ酔いに導いてくれた。続いて粥を頼む。香港でお粥はポピュラーなファーストフードだ。日本人が酒を呑んだあと屋台のラーメンを食べるように（今の若い人は牛丼らしいですね）、夜だけ営業するお粥屋さんもある。

刻んだザーサイの塩味とコリコリした歯ごたえが、熱く粘度の高い粥と絡み絶妙の味わいだ。体も温まるし消化もいいだろうから、ラーメンより体によさそうでもある。はふはふと息をつきながら粥を掻きこんでいると、突如グラスの割れる音と女性の大声が。

振り返ると、私以外の唯一の客である若い女性と中年男性のカップルが、グラスの破砕音をゴングとばかりに、激しい言い争いを開始したところだった。広東語は普通に会話していても日本人が聞くと言い争いをしているように聞こえる。そんな広東語の本気の言い争いはとても迫力満点だ。なにを言い争っているのかは全く分からないが、両者、口角泡を飛ばし一進一退の好勝負である。おそらく「粗口」と呼ばれるスラングで激しく罵り合っているのだろう。そして何故か言い争いに加わる店の老婦人。

せっかく静かだった店内だったが、居づらくなってしまった。テーブルに御代を置き、なお激しく言い争うカップルの怒声を背に店を後にした。

つづく